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私達は踊り続ける。
なぜなら
それは健康と美しさと若さを維持する為のステップだから
「「「「「「「「ハッ!ハッッ!」」」」」」」」
音楽に合わせて踊り続ける。
「あの、すみません。」
何者にも邪魔は許されない。
ワンワン!ワンワン!
先ほどから犬を連れた女性が邪魔ばかりして来る。
「あ、あの、」
黄色いジャージとキラキラ光る金のスニーカー
そしてホクロに一本毛が生えている私たちは
幸運の四十路集団エイトフォ。
「す、すみません。」
しつこいわね。
「ご入会ご希望ですか?ホクロに毛が生えて四十を超えているのが最低条件です。」
「え、二十代でホクロに毛が生えていません。」
「「「「「「「「残念~~~!!」」」」」」」」
エイトフォのメンバーで
両手の人差し指をクルクルさせながら
若い娘を追いやった。
そして
再び踊り続ける。
ひとしきりダンスを終えたら
締めのミーティングをするのがエイトフォの決まり。
「ねぇ、これ誰の携帯?落としているわよ。」
さあ、"キラキラ食堂"で失ったカロリーを取り戻すのよ。
濃淡の美しい紫の花束の向こうから
「お疲れ様でした。」
皆んなの静かな掛け声にグラスを軽く持ち上げた。
百貨店の勤続も今日で終わる。
思い出がたくさん詰まったこの場所を去る日が来るなんて
あの頃は考えた事もなかった。
ごく普通のありきたりな日常は
延々と電車のレールの様に続いていて
いつかどこかで途切れるなんて当たり前のことなのに
歳を重ねることも老いることも
何故か自分の遠い人達の出来事なのだろうと
現実を自分の事ですら漠然としか受け止められない僕が
ここにいる。
今日で六十歳の定年を迎えた。
「秋山さんありがとうございました。」
若い後輩たちは
このまま夜をを満喫するのだろう。
「一夫、次は俺の番だな。」
同僚の言葉に
結局
学校も塾も職場も老いも
ベルトコンベアのように順番に流れてゆくことが現実なのだと
ふと思う。
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