ブラックコーヒー

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その日は残業を終わえてから大隅と夕飯を食べて帰ることにした。 アルコールが得意ではない俺は食後に何となくコーヒーを飲んでいた。 「だからあいつはやめとけって言ったんだよ。」 同僚の伊藤美咲の彼氏が浮気をしていたらしい。 彼女はよく大隅に恋愛相談をしていた。 大隅は明るく社交的で誰にでも好かれる男だ。 男女ともにモテるし上司にも可愛がられている。 根暗で可愛げのない俺とは正反対。 「なんであんな男がいいかなぁ~ 俺が女だったら山手と付き合うのに。」 山手というのは俺の名前。 「俺?俺なんかやめとけよ。」 自嘲気味に笑いながら大隅のグラスをお冷グラスと入れ替える。 今日のこいつは飲み過ぎだ。 「見た目よし、学歴よし、給料よし、性格よし、 お前は何がダメなんだ!」 酔っ払いの戯言に返す言葉はないという意思表示のために先ほどウェイターに注いでもらったコーヒーに口をつけた。 「なんで彼女できないのかね~」 屈託のない笑顔を向ける酔っ払いを直視できない。 コーヒーカップから立ち上がる湯気に目線を下げた。
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