第1章

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 いつからか、僕はコーヒーが好きになり、あいつはタバコを吸うようになった。  お互い、相手の嗜好品に文句を言うことはないが、それに関わってくる物事に文句を言うことはある。  たとえば……。  ファミレスで僕がコーヒーを頼んだ時。  僕の手が五個目のミルクをあけた時、あいつは物凄く嫌そうな顔をして言った。 「お前、そんなに入れるならカフェオレ頼めよ。いくらタダだからって、それはねぇだろ」 「カフェオレってさ、上に泡がいっぱいだよね。あれ、嫌いなんだ。何か、メインのところをごまかされてる感じがしてさ。それに、飲みにくいし」  あいつは、呆れ顔でそっぽを向いた。  コーヒーを飲まないお前にはわかんないだろうね。  仕方ない……こいつがいる時は、ブラックにしておくか。  たいてい、次の機会の時には、こう思ったことなど忘れているんだけれど。  こんなこともあった。  寒い時期にあいつの家に遊びに行った時。  あいつはタバコとライターを持つと窓際に座り、窓を全開にした。 「寒いんだけど」 「部屋に煙が充満するの、嫌なんだよ」 「じゃあ、ここでタバコ吸うのやめたら?」 「それができないから、窓開けてるんだろ」 「……寒いっての」 「しょーがねぇなぁ」  ため息を吐くと、あいつはベッドから羽根布団をはぎ取り、僕の頭からかぶせた。 「あったかいだろ?」 「まぁね。とっても複雑な気持ちだけど。でも、そっちは寒いんじゃないの?」 「ばか。お前みたいに軟弱じゃねぇよ」  けど、そう言うあいつの膝は貧乏ゆすりをしていた。  絶対、寒さをごまかすためだ。  それに、煙は部屋にないけど、においは充分に来ていることを知っているんだろうか。  このにおい、僕はあまり好きではない。  彼はその辺にはこだわらないのか何なのか。  僕はもう呆れて、それ以上は何も言わなかった。  あるいは、公園で。  ベンチに座って缶コーヒーを飲む僕と、隣でタバコを吸うあいつと。 「やばい、風下だった。場所交換しよう」  よっこらせと立ち上がり、左右を交換する。  よくあることだ。  きっと僕らがコーヒーとタバコを愛し続けるかぎり、このやり取りは続くんだろうな。  たとえ文句を言われても、どっちも改める気はないのだから。
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