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『俺は小さな寂れたビルの二階に居を構えるハードボイルドな探偵、根子間仁だ。二つのデスクにローテーブルとソファーのセットを配置するだけで狭くなるような事務所で、日がな一日、困りごとを抱えた依頼者を待ち続けている』
スーツの上着を脱ぎベスト姿になった仁は、窓際に置かれたデスクに座った。
上着はデスクの上に置く。
『俺の定位置はここ。窓際のデスクの上に足を放り投げ、お気に入りのイスに深く腰掛けながら煙草を燻らせる』
くたびれた黒のズボンを履いた足をデスクの上にのせた仁は、デスクの引き出しから新品の煙草とライターを取り出した。
『少々重いこの煙草の香りが、俺の眠る頭を覚醒させる』
仁は煙草のフィルムを取り、引っ張り出した一本の煙草を口にくわえた。
そして、火をつけたライターを、煙草の先に近付ける。
『煙草の先に火が灯り……火が灯り……』
「あれ? 煙草に火がつかない……」
デスクから足を下ろして姿勢を正した仁は、よく見えるように口にくわえていた煙草をつまんで顔の前で持ち、煙草の下からライターの火であぶってみる。
「ダメだ。つかない。おかしいな……。買ったばかりだから湿気ってるわけでもないと思うけど……。そうだ! こういう時は検索検索!」
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