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『コーヒーメーカーから漂う豆の香りが、俺の心をくすぐる。どんな状況でも動じない俺だが、この香りだけは俺の心を揺るがす』
コーヒーメーカーと一緒に用意してあったマグカップに、仁はコーヒーを注ぐ。
マグカップからは湯気とともに、コーヒーの香りが立ち上った。
『今日も良い香りだ。やはりコーヒーは豆からに限る。コーヒーを楽しむならば、味を邪魔する砂糖やミルクは入れてはならない。コーヒーはブラックで飲むものだ』
コーヒーとともにデスクに戻り、いつの間にかイスに陣取っていた黒猫を床にどかして、仁はイスを座ると同時にクルリと回し、窓の外を眺めた。
『一雨来そうな空模様だが、何故かそんな日には、一癖も二癖もある事件が舞い込むと決まっている』
窓の外に視線を向けたまま、仁はマグカップに口をつけた。
『流れ込むコーヒーの苦味が』
「苦! うえぇ。酷い味!」
仁は舌を出して顔を歪めた。
「何をやってるんですか所長?」
聞こえてきた声に仁が振り向くと、スーパーの袋を持ったセーラー服姿の女子高生が、事務所のドアから中に入ってくるところだった。
「あ、結花ちゃん……」
恥ずかしいところを見られたと、仁はバツの悪い顔をする。
結花はそれを気にするでもなく、ずんずんと事務所の中に入って来る。
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