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そして、デスクの前に立つと、結花はデスクの上に手を伸ばして火のついた煙草を取り、灰皿にぐりぐりと押し付けて煙草の火を消した。
「吸ったこともない煙草に」
今度はデスクを回り込んで仁のそばに来ると、結花は仁が手に持っていたマグカップの中を覗きこむ。
「飲めもしないブラックコーヒー」
そのまま顔を上げて、結花は仁の顔をじっと見つめた。
「うっすらと残る目の下のくま」
仁の顔を見つめたまま、結花は眉を寄せる。
「今度は何にはまったんですか?」
「え、えっと……」
結花の図星過ぎる指摘に、仁は目が泳いだ。
「漫画ですか? ドラマですか? 小説ですか? ……小説ですね」
結花が“小説”と言った瞬間に、仁の身体がピクリと動いてしまった。
「うう……。『ハードボイルド探偵二十四時』全十五巻を一晩かけて読破しました……」
仁の告白を受けた結花は、呆れたようにため息を吐いた。
「よりによってハードボイルドですか……」
「で、でもハードボイルドってカッコいいんだよ! どんな難事件でも強靭な精神で華麗に解決しちゃうんだ!」
小説の主人公を思い出し、仁は興奮に頬を染める。
「憧れるな、とは言いません。でも人には向き不向きってものがあるんですよ?」
結花は仁の持つマグカップをそっと取ると、コーヒーメーカーがある荷物台に向かった。
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