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刑務所の面会室の廊下で、佳音は池田次郎にばったり会う。
「兄のことは許してあげてください。」
「許してますよ。だから示談にも応じようと思っている。それよりお兄さんが何で俺を襲ったかだ。今明らかになっている罪以上に隠したいことがあるからじゃないかな。隠しても無駄だよ。真実ってのは人を追いかけてくる。隠したつもりでもいつかきっとあらわになる。人は真実に復讐されるんだ。」人は真実に復讐される。次郎が放ったこのセリフはこのドラマを代表する名セリフとして記憶される。
佳音があの夜父から何をされたか、その後、何がどうなったか。それを思い出したら彼女の心がどうなってしまうのか。そのトラウマの奥深さを思い知らされるシーンが第六話のラスト近くにあった。
そうして気を失った佳音を見守っている殉也が、意識を取り戻した佳音に言った言葉はふたりを強く結びつけるきっかけとなるものであった。
「君の帰りが遅くて、すごく不安だったんだ。もう帰ってこないんじゃないかって。誰かにさらわれたんじゃないかって。ときどきね、聖花の看病をしている最中に、ほんの少し目を離した2、3秒の間、心臓が止まっているんじゃないかって怖くなる時がある。いまも、それと同じくらい怖かった。君がもう目を覚まさないんじゃないかって。よかった。ぼくはもう君がいないと駄目なんだな。」このセリフには殉也の心の傷が隠されている。恐らく彼は、幼いころ、事故で死んだご両親の亡きがらを目の当たりにしたのだ。もう二度と目を覚ますことのない父と母。彼の衝撃の深さはこのドラマでは語られないが、彼のやさしさの奥には深い悲しみがあることをぼくは忘れることができない。殉也はそういう哀しい青年である。
「やめてください。私には、そんな価値ないです。」
「そんなことないよ。」
「そうなんです。だからみんな私から離れてゆくんです。」
「ぼくは離れないよ。前にも言ったろ。」そう言って佳音にあたたかい飲み物を手渡そうとする殉也。お互いの手が触れそうになって、見つめ合う二人。
けれど、その夜、さらに衝撃的なできごとが二人の目の前で起こった。
聖花の意識が完全に戻り、植物状態から脱したのだ。あまりのことに言葉もない殉也と佳音(ただ、殉也が佳音の買って来てくれたカサブランカの花束をむざむざ踏みつけにするカットは、ぼくには必要なカットだとはとても思えない)。
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