第1章

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第六話。 聖花、危篤。とりあえず心肺停止状態は脱したが、依然として心肺機能の著しい低下は避けられず、もういつ臨終を迎えても不思議はない彼女を見ていられない殉也は、放心状態のまま病院を抜け出し、さ迷うような足どりで教会にやってきた。 少年の頃、両親を事故で失った彼には、この世に残されたたったひとつの生きてゆくよすがが聖花の存在だった。それを失ったら彼にはもう生きてゆく術がない。 この場面の北川悠仁の演技は眼を覆いたくなるほど稚拙で下手なのだが、それでも眼をそらさず見ていると、生きる希望を失いつつある殉也の切実な悲哀が真に迫ってくる。下手だが心がこもっている。それは視聴者にも伝わっている。この場面での彼の演技も単なる演技というものを超越している。 また、その破綻しそうな彼のあぶなっかしい演技を、懸命にサポートする堀北真希のひたむきな携帯電話からのセリフによる呼びかけに、強く胸を打たれる。北川の稚拙だが真剣そのものの演技を、懸命に支えようとする堀北。 昴の回想シーン。爪を噛み彼を見つめる内田有紀の最初の表情が実に印象的。昴への勝負顔なのだ。だがその後のセリフが最悪。「殉也の愛情が重いの。私にはこんなに愛される価値はない。」このセリフ、何だか非常に臭いのだが、この非常な臭さは脚本の失策であろう。聖花はこんなセリフは絶対に吐かないとぼくは思うのだ。彼女はそんな垢抜けない野暮な女ではない。 佳音はおそらく一睡もしていないのであろう、懸命に聖花の好きな讃美歌、「いつくしみ深き」のメロディを、オルゴールを廻して聴かせつづける。 その不断の努力が実を結んだのか、やがて一命を取りとめ、小康を得て退院の運びとなる聖花。 佳音は殉也の不在の間、聖花の好きなカサブランカの花をベッドに敷き詰めていた。彼女のささやかな心づかいである。 殉也は佳音への感謝のしるしに物置に使っていた居室を片づけ、もうどこにも居場所がない佳音の寝室として提供することにした。
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