第1章

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しかし、思うのだが、こうして話が進むほどに、堀北真希のセリフ廻しには一層心がこもってきて、言葉尻にきめ細やかな心が感じられる。表情の演技にも恋をしているうら若い女性のやさしさのようなものがありありと感じられる。 堀北真希には純然たる恋愛劇は数少ないが、この恋愛ドラマでの堀北真希のうるおいのある、恋する娘の演技はそれだけで観る者をやさしい気持ちにさせる、癒しの穏やかさにあふれている。 深夜3時、殉也の部屋の目覚まし時計が止まらない。殉也は疲れて起きないのだろうか。佳音は殉也の代わりに、聖花の寝がえりを打たせてあげ、傍らに眠っている殉也に風邪を引かないように自分の上着をかけてあげた。「お休みなさい」。 ふたたび服役中の耀司。 この第六話、ひさびさに刑務官の藤堂さんが登場する。 藤堂さんの勤務態度を演ずる時の注意点は、温情ある刑務官だから冷たすぎてはいけないし、かといって温かすぎてもいけない。しかも表情はつねに無表情でなくてはいけないし、ただセリフのみによって耀司を気遣う血の通った温情を〝垣間見せ〟なければいけない。さらけだしてはいけないのである。このむつかしい役をかの役者さんは非常にストイックに演じてくれた。ぼくが〈イノセント・ラヴ〉を未だに観つづけている、最大の理由の一つであるし、このドラマで得た最大の収穫が彼であった。 彼は先述の通り、表情に乏しいが、発する言葉は受刑者である耀司への温情に満ち、一つ一つのセリフはある意味素っ気ないけれど、その裏にあるやさしさ、人間的なぬくもりは格別で、何でもない彼の言葉にほろりとさせられる場面が幾度もあったことをぼくは忘れることができない。こんなにセリフ廻しの上手い役者を、ぼくはこの世に幾人も知らない。藤堂さん役の役者さんはその数少ない非常にすぐれた俳優さんの一人である。忘れられない役者さんである(特に第二話の冒頭の彼の台詞廻しは、このドラマの誰の台詞廻しよりも素晴らしかった。何でもない台詞だが、心を揺さぶられたことは確かである)。
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