第1章

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赤い唇から煙が吐き出される。 長いキセルの先からも煙が空気にとけている。 「嗜好品ね、いえ代用品かしら?」 「ヴァレリー様、コーヒーですよ」 低い声で主人である美女を呼び、目の前にあるテーブルに華奢でありながら豪華なマイセンのコーヒーカップを置く。 女主人はキセルを一度、灰皿に置くと、コーヒーカップに手を伸ばした。 ぬけるような白い肌に赤いネイルが目立つ。 ひと口、マイセンのカップに口をつけ、コーヒーを味わう。 その姿さえ、男の美意識を刺激してやまない。 豊かな金の髪、海のような青い瞳、整いすぎる美貌。 その主の赤い唇が笑った。 「やはり代用品にしかならないわね」 男は美貌の主人と並んでも遜色ない端整な顔立ちをしていたが、 彼は自分の容姿に喜びを感じることはなかった。 唯一、女主人の隣りに立てるだけの容姿に救いを得ただけだ。 「ヴァレリー様、狩りに出られないのですから」 もはや相棒とも呼べる月日を過ごしてきた男の言葉に、ヴァレリーは忌々しそうに言葉を吐く。 「切り裂きジャックのおかげで、ヤード(警官)が至る所にいる」 「それももう少しの辛抱です」 「あぁ、早く処女の血が飲みたい」 ヴァレリーの言葉に驚くことなく、男は頷く。 「それまでは、タバコとコーヒーで我慢なさってくださいませ」 「あたくしは、我慢は嫌いよ。でも、ルークおまえのいれるコーヒーは満足してるわ」 二人の吸血鬼は薄く笑った。 「それは、光栄の至りです」 「あら、本当よ」 そう言って、ヴァレリーは芳香な香りを放つコーヒーへと唇を寄せた。
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