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赤い唇から煙が吐き出される。
長いキセルの先からも煙が空気にとけている。
「嗜好品ね、いえ代用品かしら?」
「ヴァレリー様、コーヒーですよ」
低い声で主人である美女を呼び、目の前にあるテーブルに華奢でありながら豪華なマイセンのコーヒーカップを置く。
女主人はキセルを一度、灰皿に置くと、コーヒーカップに手を伸ばした。
ぬけるような白い肌に赤いネイルが目立つ。
ひと口、マイセンのカップに口をつけ、コーヒーを味わう。
その姿さえ、男の美意識を刺激してやまない。
豊かな金の髪、海のような青い瞳、整いすぎる美貌。
その主の赤い唇が笑った。
「やはり代用品にしかならないわね」
男は美貌の主人と並んでも遜色ない端整な顔立ちをしていたが、
彼は自分の容姿に喜びを感じることはなかった。
唯一、女主人の隣りに立てるだけの容姿に救いを得ただけだ。
「ヴァレリー様、狩りに出られないのですから」
もはや相棒とも呼べる月日を過ごしてきた男の言葉に、ヴァレリーは忌々しそうに言葉を吐く。
「切り裂きジャックのおかげで、ヤード(警官)が至る所にいる」
「それももう少しの辛抱です」
「あぁ、早く処女の血が飲みたい」
ヴァレリーの言葉に驚くことなく、男は頷く。
「それまでは、タバコとコーヒーで我慢なさってくださいませ」
「あたくしは、我慢は嫌いよ。でも、ルークおまえのいれるコーヒーは満足してるわ」
二人の吸血鬼は薄く笑った。
「それは、光栄の至りです」
「あら、本当よ」
そう言って、ヴァレリーは芳香な香りを放つコーヒーへと唇を寄せた。
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