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合同合宿中でも、試合に負けて悔しくないわけじゃない。
ただ、日向のように素直に声に出さないだけ。
冷静だクールだと言われていても、悔しいものは悔しい。
「月島君」
「何?」
IH予選後に入ったマネージャーの谷地さんが近づいてきた。
「皆が探してたよ」
「そう」
「……大丈夫?」
「何が?」
かけられたら言葉に、きつく返したせいか、相手は、ひっ、と短く悲鳴をあげる。
しまった、と口元に手をあて短く謝れば、谷地さんは口を引き結んだ後、意を決したように上向いた。
「口に出して言ってしまうより、口に出さない方が、ずっと思いが強いんだよ……だから、私は、月島君が誰よりも悔しいんだって……思ってる」
谷地さんの言葉に、あることを思い出し、笑ってしまった。
「まあ、名前も『蛍』だしね」
「え……」
負けた悔しさはまだ残るものの、少しだけ心持ちが軽くなる。
「知らない? けっこう有名な都々逸」
「あ」
特進クラスである彼女は、すぐに思い当たったらしい。
「じゃあ、すぐ悔しい! って叫ぶ日向は蝉だね」
「うわ、日向が蝉とか、うるさそう」
二人して吹き出して大笑い。
「谷地さん」
「へい?」
「戻ろうか、体育館」
「うん」
次は負けない、と心内で呟いて、谷地さんを促してその場を離れた。
恋に焦がれて鳴く蝉よりも
鳴かぬ蛍が身を焦がす
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