悪戦苦闘

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悪戦苦闘

 耳の奥がジリジリしている。図書館の奴が2人も死んだ。オイラを馬鹿にしたせいだ。  横浜駅近くにあるビジネスホテルのロビーで朝焼けを眺めている。現在、午前5時。  くそっ!郡司の野郎、刑事になっていたとはな。 1億なんて大金、どうやって手に入れたらいいんだ!?悶々としたまま一夜が明けてしまった。  美穂が産まれたとき、この身を犠牲にしてでも幸せにしてやろうと己に誓った。  銀行強盗でもしようか?イヤイヤ、失敗するに決まってる。若い頃ならいざ知らず、60手前だぜ?出来るわけなかっぺ。  宝くじ?妻夫木がCMでやってるやん。『柳葉~!』って。当たらん当たらん。年末ジャンボはおろか、スクラッチだって当たったことがない。  奈良の策略にかかり、刑事生命を断たれたオイラは半ホームレス生活を強いられることになった。  親戚に頼ろうとも考えたが、警察に通報されるのは恐かった。昔、何度か誘拐事件を担当したがいずれも失敗に終わった。  タンス貯金も合わせて200万集まった。郡司に襲われたのは18時近かったため、ATMを頼るしかなかった。  ATMを斧か何かで叩き割りたい衝動に駆られたが、焦ってはいけない。 20時近くに黄金町にある後輩のアパートを訪ねた。捜査のイロハも教えたし、飯も何度か奢ってやった。 『刑事をクビになって生活に困ってる』 『自分に関係ありますか?いや、確かに佐々木先輩には世話にはなりましたよ?でも、こっちも大変なんすよ、ガキが産まれるんで』 『そうか、女か?男か?』 『帰ってもらえません?飯、まだなんで』  オイラのことより食欲が優先かよ!?  鼻くそをほじりながら回想してると、バカップルが横目で睨んできた。「キショ」 「おい!てめぇ、何か言ったかよ!?」  茶髪の青年の胸ぐらを掴んだ。 「うっせーよ、オッサン」  青年が腕を捻り返してきた。関節がおかしくなりそうだ。クソッ、郡司!殺してやる! 「プーマ、やめなよぅ!」  スマホを弄ってたギャルが甘ったるい声で嗜める。 「プーマって何だよ?プー太郎か?」 「関係ねぇだろ?キショいんだけど」  ホテルを逃げるように出て、横浜駅に向かう。  高島屋バーバリーを通り過ぎたとき、脳内に電流が走った!《前科者を使え》悪魔が囁いた。
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