フリオーソ

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フリオーソ

 あの女、うぜぇな!佳菜子は昔、狭山恵美って女から強請られていた。  佳菜子は万引きの常習犯だった。父親は借金を作り蒸発、学費を払うことがなくなり夕凪高校を中退。  ケガをしたので、バンドエイドを万引きした。国道沿いにある、ファイブマートっていうコンビニだ。店を出る寸前、手を掴まれた。  狐みたいに頬の痩けた若い女が睨んでいた。それが狭山恵美だった。スーツ姿だったから、客だと思ったが彼女は万引きGメンだったのだ。 『お嬢ちゃん、万引きは犯罪よ』  スタッフルームに連れ込まれ、氏名、年齢、学校名を聞かれたので正直に答えた。 『中退かぁ、可愛そうによかったらウチで働かない?まぁ、反省してるようだしさ』  このときは狭山が神のように思えたが、あのとき補導されていた方が幸せだったのかも知れない。  品出しの仕事をしてると、店長の真黒が近づいてきた。デップリと太ってはいるがイケメンだった。 『やぁ、佳菜子ちゃん頑張ってるかね?噂は聞いているよ。品出しはもういいからさ…』  耳の奥がワンワンしていた。耳鳴りとともに悪夢がまざまざと蘇った。 「先生、どうしたの?」  冬美の声で我に帰る。「あぁ、ゴメンゴメン」  佳菜子はピアノ教室で講師の仕事をしていた。教室は野毛にある。 「ゲラゲラポッポー弾いてぇ」  冬美が目をキラキラ輝かせる。  手首の傷が疼く。  
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