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「……一条さん。ライター、忘れてましたよ」
「ああ、悪い」
「煙草、少し減らした方がいいですよ」
「はいはい。……先生?」
インテリヤクザ、じゃなかった、担当編集者の一条が、怪訝な顔で僕を見る。
目の前の二人の会話から、あらぬ方向へと思考が飛躍していた。
水野さん、ごめんなさい。と心の中で詫びる。
「どうかしたか?」
「あ、いえ」
「……今、何考えてた?」
冷たい汗が、背を伝う。
何も、と僕は慌てて首を横に振った。
「まあ、いい。昨日送ってもらった分を、確認したんだが」
「はい」
そのまま、仕事の話に入る。細々といただいているBL小説のお仕事である。
直すところがあれば電話やファックスで指示を受けることがほとんどだが、今日は次の作品の話もしておきたいということで、社の方に呼び出された。
売れない小説家の自分としては、そう言われれば素直に応じるしかない。
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