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おじさんはコーヒーを飲んだ後にタバコを吸うことがあった。
いや、いつもそうではない。
たまにおじさんは飲むと吸うの順番が逆になるときがあるのだ。
オレは子どもの頃、おじさんがたまに見せるこの行動が不思議でしょうがなかった。
コーヒーなんて苦いものを飲んだ後にタバコの苦い臭いを吐く。
これでは苦いコーヒーを吐き出すためにタバコを吸っているように見えたからだ。
オレは母親に「そうなんじゃないの?」って聞いてみた。
「おじさんのコーヒーとタバコ、飲むと吸うの順番がたまに逆になるときがあるって?」
母親はちょっと考え、笑って言った、
「それはね、あなたも大人になればわかるわよ。なんでたまにそんな順番になるのかってね」
それは子どもが知るようなことではない、という答えだった。
カチっとライターに火をつけ、オレはタバコの先端をそこに当てた。
「お前もタバコを吸える年齢になったんだな」
おじさんはコーヒーをすすりながらオレにほほえんだ。
そしてコーヒーを飲み終えると自分もタバコを吸い始めた。
タバコを吸える大人の年齢になってオレは、おじさんと話をしているとき、ふとあることに気づいた。
コーヒーを飲み終えてからタバコを吸い始める。
この順番には話題を変えて欲しいって態度を感じたのだ。
だからオレも自然とそういう順番を覚えた。
「そうだね。オレももう大人になったんだよな。で、話を変えるだけどさ、この間仕事で――」
苦いものを飲み込み、苦いものを吐き出す。
おじさんにも、そしてオレにも、コーヒーとタバコはそういうものであった。
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