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俺の名前は小畑卓也。ロスジェネと言われる世代だが、就職難民になることなく就職でき、職場で知り合った女性と結婚もできた。今では一児の父親でもある。
この間、小学校の同窓会があった。俺が参加するのは初めてだ。特別な理由があるわけじゃない。ただ、なんとなく、これまでは行く気にならなかっただけで、今回は行く気になっただけだ。
同窓会には当時の担任とクラスメートの半分近くが参加していた。当時の面影からかけ離れ、名前を言われても思い出せないものもいた。いや俺自身、名前を言っても、「だれ?」という反応をされる。しかも面影云々の前に、「そんな奴クラスにいたっけ?」という反応なのだ。確かに俺は影の薄い存在だった。しかし、全く誰の記憶にも残っていないというのは寂しすぎる。先生でさえ「あ~ぁ、小畑君でしょ。覚えてるわよ。覚えてるわ」とは言うものの具体的な記憶などないようだ。参加しなけりゃよかった…。と後悔する。
「遅れてゴメン!」
30分ほど遅れて、一人の女性がやってきた。部屋の中が一挙に明るくなった。彼女の名前は野崎春子。彼女はクラス委員をしていた。
「遅いぞ!」
と、男子が騒ぐ。非難しているのではなく、待ちに待ったという感じだ。
「春ちゃん、こっちに座りなよ」
と、女子も自分達の側に座らそうと呼びかける。
しかし野崎は俺を見つけると、
「あ! 珍しい人が来てる!!!」
と俺を指さし、隣に座った。
「コバタ君、今までどうしてたの?」
小学生の頃、野崎は俺のことを「コバタ」と呼んでいた。
「えっ! あ、まぁ、普通に働いてるけど…」
俺はどきまぎしながら答えた。男子の視線が怖い。女子の視線も怖い。
「野崎、小畑のこと覚えてんの?」
小学生の頃から意地が悪かった山田が聞く。
「当たり前じゃん。コバタ君、確か卒業アルバムに『宇宙飛行士になりたい』って書いてたわよね」
と、野崎が言った。
「あ~ぁ、思い出した! ジミ~な小畑君が『宇宙飛行士』なんて書いてたからビックリしたよね」
と、川中がからかうように言うと、他に数人、「思い出した」と言い、笑いが生じる。
「私ね。私と同じ夢持ってる人がいるんだっと思って凄く嬉しかったんだ~」
野崎が夢を見るように言う。
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