第1章

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 俺は恥ずかしくてどうしようもなかった。当時、卒業アルバムを作る時に「将来の夢」を一言載せようという事になった。俺には別に夢などなかった。皆がスラスラ紙に書いているのに何を書いて良いのか見当も付かない。隣の席の野崎が「宇宙飛行士」と書いているのをみて、それを真似たのだ。  同窓会はその後も野崎を中心に盛り上がり、二次会、三次会と続いた。俺は途中で帰ろうとしたが、そのたび、野崎が話しかけてきて帰るタイミングを逃した。ほとんどの参加者が酔いつぶれた頃、解散となった。  俺はようやく帰れると、駅に向かった。  すると野崎が付いてきて 「コバタ君、もう少し話さない?」  と言う。  俺は戸惑っていると、 「コバタ君、お酒飲んでなかったでしょ? 私も飲まないの。駅の近くに遅くまでやってる喫茶店ができたからつきあってくれない?」  と野崎が続けて言う。 「まぁ…コーヒーなら…」  と俺は言い、野崎に付いて行く。  喫茶店は駅裏にあった。深夜だというのに結構人がいる。  席に着くと、野崎がいきなり 「私ね。コバタ君のこと好きだったんだよ」  と言った。  俺は衝撃を受けた。  告白なんて生まれて初めてだ。なんと返事して良いやら…そもそも俺には妻子がいる。いやいや、まて。これは、何かのいたずらだ。クラスの奴らがしかけたに違いない。山田あたりの陰謀だろう。しかし、そんな陰謀に野崎がのるだろうか? もしかしたら、目の前にいるのは野崎のそっくりさんかもしれない…。  だがしかし、もし、彼女が小学生の頃、俺に告白してたらどうなっていたんだろうか…。一緒に宇宙飛行士を目指したんだろうか? 彼女のことだから俺を叱咤激励し、勉強させたり、運動させたりするんだろうな。で、夫婦で宇宙飛行士とかになってテレビに出たりするんだろうか? あ、いや、無理だ。俺はエイゴがとてつもなく苦手だ。宇宙飛行士となると日常会話レベル以上の専門的なこともエイゴが必要になるのだろう。そこを彼女からスパルタでビシバシやられると俺、壊れるな…。  などなど俺の頭の中で妄想が巡る。 「あ~ぁ、えっと…。その男女とかのじゃなくて、人間としてね。」  と、野崎がお茶目な笑顔で言う。  俺はホッとしたが、どちらにしろ好かれる要素がない。 「私、クラス委員やってたじゃない?」  野崎が言うので、俺は頷く。
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