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僕はお棺に入った父さんを前にした時、本当は泣いていたのだ。心の中では意味のない言葉が渦巻いていたが、全ては涙を打ち消すため。僕だって、普通の人間だった。父さんが死んだ時くらい、涙は溢れ出るもんだったのだ。それを認めるのが何故か嫌で、制服の袖を顔に持っていくのが恥ずかしかった。母さんに泣いていると思われたくなかった。僕は、父さんに何もしてやれなかった。ただ、毎朝、独りで出て行く背中を見ていただけだった。そんな気持ちを僕は、家族がいない彼女にぶつけていた。あれから萎んでいくような母さんにぶつけるのが怖かったのだ。母さんまでもいなくなっていくようで。でも、そんなことで彼女に八つ当たりして良い理由にはならない。  家に帰るまでの途中、僕は少し泣いた。あかねにメールを入れようかと思ったが、止めておいた。こういうのは、あんまり好きじゃなさそうだ。  横から当たる夕日が、涙で濡れた頬に焼き付いて暖かい。とりあえず、母さんが待っている家に帰ることにした。
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