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彼女はきれいな筋が入った背中が丸見えのキャミソールに、ショートパンツの出で立ちで台所に突っ立っている。いかにも私はダラシない女です、と主張したげに。最初はそんな彼女が好きだったのに。いつからか牛乳をミルクと言う彼女に苛立ち、分かったようにタバコを吸う彼女に腹が立ち、ブラックコーヒーを彼女の家で飲んでいる自分を殺したくなる。  換気扇の下で煙を燻らす彼女に、もう僕は幻想を抱かないだろう。彼女だってそのことに気づいているはずだ。なのにどちらからも切り出さないのは、僕たちが幼いからなのか。ただ、なんでもない時間を二人で過ごしていた。舌をコーヒーに突っ込んで、じんわり苦さを味わっていた。次第に感覚が麻痺してきてもしかしたら、今なら美味く飲めるかもしれない。そう思ってのんでみるが、やっぱり苦かった。舌に引っかかるような、ざらざらとした感触。苦い。  背後でライターに火が灯る音が聞こえた。
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