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僕の父さんは、タバコとコーヒーが朝食だというような人だった。その日も母さんの「野菜摂らないとだめよ」という忠告を黙殺し、朝のニュースを面白くなさそうに睨みつけ、それで意識を保っているかのようにタバコを吸う。空きっ腹にカフェインは身体に悪いから牛乳いれましょうかと毎朝聞く母さんを、蝿を追い払うような仕草で「いらん」と一言であしらい、出てきたブラックのコーヒーをずるずると飲む。それからいつものように玄関を開け会社に向かい、いつものように母さんは濡れて指先が赤くなった手で見送り、僕も何となく「行ってらっしゃい」と言う、なんともない朝だった。
お昼が過ぎて、五時間目が始まってすぐだった。咀嚼した食べ物がお腹の中でごろごろ動き出した様子で、心地良い眠りに誘われていた。生ぬるい空気が机と机の間を気だるげに満たしていく。先生の声が脳内を素通りする。
その時、雑音が教室中に響いた。反射的に顔を上げると、いくつもの黒い頭の向こうに、学年主任が教室の中を見渡すように立っていた。授業中だった牧野先生に「ちょっと良いですか」と二人とも廊下に姿を消した。
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