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「驚かれると思うが、お父様がキュウセイされた」  キュウセイ……? キュウセイってなんだ? 頭の中で、何となく急逝という文字は浮かんだ。でもそれがキュウセイと読むだなんて初めて知った。でもなんで、今、僕は急逝と分かったんだろう。  何の反応も示さない僕を、学年主任は痛ましく思ったのか左右の眉毛を八の字に曲げた。それから側に設置された固定電話を指した。 「お母様と電話繋がってるから」  どこかのボタンを押し、受話器を差し出してくる。 「はい……」 「ゆうき? 落ち着いて聞いてね……」  母さんの声は今にも破裂しそうだった。細かく、高いところでぶるぶる震えている。胸が締め付けられるようだった。目頭がぐっと熱くなる。 「お父さんが……お父さんが、さっき現場で倒れて亡くなったの……」  お母さんの姿はありありと想像できた。きっと、小さな背中を丸めて、しゃがみ込んで泣いているんだろう。拳を握る。 「なんで」  声が震えてしまっただろうか。 「過労死だって……あと、煙草も良くなかったみたい……」  喉が人知れず、ひくっと鳴った。今朝の、タバコを吸う父さんの姿が目の前に浮かんだ。記憶の中の父さんは、顔色が悪く、疲れた肌で、口から出した煙が毛穴に吸い込まれていくようだった。濁った瞳で、何も言わずに家を出て行った。 「お葬式の準備とかあるから……とりあえず、家に帰ってきなさい……」
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