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静かな声が凛(りん)と銃声を突き抜けてくる。
「わたしが敵狙撃手を沈黙させます」
身体と同じくらいの長大な銃身を肩に当てたカケルだった。
「姉の仇(かたき)もとらなくちゃいけませんから」
ふわふわとした末っ子の雰囲気はなかった。地面の浅い窪地に伏せた敵のスナイパーはほぼ姿が見えなかった。狙撃の瞬間だけモグラ叩きの要領で身体をのぞかせる。その瞬間を一発で仕とめてめていくのは難易度の高い狙撃だ。
「わかった、萬少尉、頼む。ソウヤさん、第2波を近づけないでくれ」
戦闘訓練が始まってから、まだ15分とは経過していなかった。秋も深まりかなりの肌寒さだったが、タツオはすでに汗だくで喉(のど)の渇きを覚えていた。
「手の空(あ)いた者から水分を補給せよ。弾幕切らすな。この陣地はなんとしても死守するぞ。テル、負傷者の状況を報告してくれ」
80式分隊支援機関銃から離れ、テルがクニの元に這っていく。
「クニは死亡フラッグが立ってる。もうダメだ、こいつ。全身カチカチだ」
塹壕の底でクニが叫んだ。
「うるせえ、好きで死んでるんじゃないぞ。そうだ、タツオ。おれを盾(たて)につかってくれ」
「わかった。あとで考える」
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