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 ――その姿、まさに魔性。  玲瓏たる美貌は、善悪すら超越した禍々しいまでの美しさを誇示し、見るものすべてを魅了し圧倒せしめる。  魔を統べ、魔を使役する、冷徹無比、悪逆非道の王。  魔の王。――魔王。  かの者に対峙するは、人の身で聖なる剣を手に、神の代行者として魔を滅する祝福を与えられた選ばれし勇者。  亜麻色の髪、長身痩躯の青年。  普段はどこか眠たげに見える甘めの目元も、今はきりりと吊り上がって魔王を見据えている。  無傷の魔王に対して、彼はすでに満身創痍であった。  聖剣を握る手は、血を失いすぎて青ざめ、かすかに震えていた。  勇者は肩で息をしながら荒い息の合間に毒づく。 「切っても切っても再生しやがる。血もでやしねぇ。……化けモンめ」 「一旦引いて態勢を立て直しますか?」  勇者の傷を回復魔法で癒しながら神官は提案した。勇者の消耗が予想以上に激しい。回復役の神官にはそれが如実にわかった。  しかし勇者は口端だけで笑い、それを一蹴する。 「冗談だろ。……柄にもなく弱気か?」 「ぼろぼろの貴方に気を使ったんですよ」 「そいつはどうも。――アレをやる」
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