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神官は一瞬息を飲み、かすかに頷いた。
ここが正念場であることは彼も、いや、この場に残った全員がわかっていた。
引いたところで、もう再び魔王城に攻め込める頭数も揃っていない。
ここまでたどり着くために、何人もの仲間を置き去りにしてきた。――犠牲にした。
それでも――。
先へ。
この先へ。
背を押す仲間たちの想いを抱え、ようやく魔王のところまで来たのだ。
戻れる道はない。
魔王を打ち倒すまで。
そのためだけに、今、勇者はこの場に立っている。
最強にして無敵の魔王を前に、一歩だって引くわけにはいかないのだ。背負ってきたものが多すぎた。失ったものも多すぎた。
黒衣の魔術師へ目くばせし、勇者は残った力のすべてを振り絞って地を蹴る。
最短距離を、馬鹿正直に正面から突っ込む。もはや迂回する余力などない。
空気を切り裂く魔力の塊――魔弾が何発も勇者を襲った。
それを紙一重で躱し、魔王に肉薄する。
魔王は、何度も挑んでくる勇者の姿を冷めた眼差しで迎えた。
「どんなに足掻こうと、ちっぽけな人間ごときが我に敵うはずがなかろう。……目障りだ。死ね」
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