前章

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 魔王の掌に暗黒の渦が生まれる。  時が過ぎるごとにそれが徐々に形を大きくし、魔力の風が魔王の紫紺の髪を巻き上げ始めた。  城すらも破壊しそうな巨大な力を、魔王は解き放とうとしている。 (あれは不味い)  かつてないぞっとするほどの危機感が勇者を襲う。  しかし、勇者は冷静さを失わなかった。  勝算は、まだ残されている。  あれが魔王の手を離れる前に、仕留めればいいだけだ。  ――核。  魔王のみぞおちに位置する核。  それに聖剣を突き立てることさえできればこの戦いは終わる。  魔術師の放った攻撃魔法『千本の茨』が四方八方から魔王を襲う。  最高位の魔術は、魔王の結界さえ弾く茨の鞭だ。  それでも魔王の表皮をわずかに傷つけるのみ。  しかし、突如、茨の一本が勇者の身体を貫いて腹の中心部から魔王へ放たれた。  その茨は、面食らったように目をかすかに見張った魔王の首に巻きつき、一瞬だけ動きを制限することに成功した。  だが歴戦の勇者にとってなによりもその一瞬が重要だった。  勇者は腹の激痛を気力だけで耐え、その一振りに己の持ちうるすべての力を込めた。 「ぉおおおおおおっ!!」  己を鼓舞する咆哮をあげ、骨まで断ち切れと魔王の身体を一閃する。
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