朝運ぶ雨

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窓を打つ雨音で、目が覚めた。パチパチと鳴る音は、何かが弾けているように軽快だが、窓を開いて外を確認した菜乃佳は、肩を落とし、溜息も落とした。 今日は、出掛ける予定で、何週間も前から楽しみにしていたのに。 「……どうした?」 穏やかな問いかけにも、落胆を増すばかりだ。せっかくこうして二人でいられるのに、まさかの雨だなんてとぼやけば、隣は微笑を漏らす。 「雨が降ると、いいことがある」 「……どんな?」 雨が降ると髪型が決まらないし、どんなに朝時間をかけてセットしても、夕方は元に戻ってしまう。ストッキングが貼りつくのが不快だし、それならとパンツを履いてみれば泥はねが気にかかる。気をつけても、パンプスやバッグの中まで濡れてしまうこともある。洗濯物は干せないし、掃除するにも気を遣う。 唯一雨が嬉しいのは花粉の時期だが、雨上がりは一層飛散量が増えるから、良いことなのか悪いことなのかは紙一重といった具合で、雨で嬉しいことなんて思いつかなかった。
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