月隠す花

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少量ずつを幾種類もワンプレートに載せられた前菜は、目にも楽しい。続いてやって来た、一人暮らしの食卓には上りにくい春らしい食材は、苦い。常より鈍い味覚でも、それが分かることが嬉しい。 身構えないメニューはランチのようで、気を楽にした。 これまでの仕事や新しい部署の話、社内の噂。異動してきたばかりの同僚と交わすだろう常識的な話題を礼儀正しく上らせる。お互い大口を開けて笑ったりするタイプではないが、見目も華やかな料理は、口を滑らかにさせる。 夜桜見物が控えている上に、今日は月曜日。必要以上に時間を取ることもなく、気詰まりに思う暇もなかった。 珈琲は、北方の薦める店で飲むからと、ドルチェを前に温かい紅茶を頼むと、宵闇に浮かぶ花を眺める。ぼんぼりに照らされる白い花は、ガラス越しだと一層幻想的に映って、非現実的だ。
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