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菜乃佳の選んだ苺のティラミスは色とりどりのカットフルーツで盛り付けられ、プレートにはチョコレートでアルファベットが描かれている。イタリア語の崩し文字は、何と書いてあるのか判読できなかったが、お誕生日おめでとう、ということらしい。予約をするときに、伝えておいてくれたのだろう。店員は、滑らかな発音で教えてくれたが、イタリア語には疎いので、残念ながら聞き取れなかった。
「あの……なんでご存知だったんですか?」
「今朝、江口さんに祝われていたでしょう」
江口は、別の部署にいる同期だ。面倒見が良い彼女と、朝一番のオフィスの入り口でばったり出くわした途端に言われた「おめでとう」と言う声は、廊下中に響いていたから、それを聞かれたのだろう。
お互い、祝われても単純に嬉しいという年齢ではないはずだが、明るいキャラクターの彼女に厭味はない。繁忙期を過ぎたら飲みに行こうと話して朝から元気をもらい、それで今年の誕生祝いは終わったような気がしていたのだった。
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