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食事で体が温まったせいか、外へ出ても肌寒さは感じなかった。
菜乃佳にはありがたいことに、湿度が高い。土日は気温が低く、今日は朝からぐずついた天気なので、花粉症持ちには有り難い。もう少し気温が高くなると、まとわりつくような湿気は鬱陶しく感じるだろうが、歩き出すと時折ひんやりとした風が通り抜ける春の夜は、心地好かった。
桜並木の下に戻って、土手の上の細い歩道を歩く。橋の手前では、賑やかに周囲を照らしていたぼんぼりもあっという間に終わりを告げて、間隔の広い外灯が淡く並木を照らしていた。
北方は、菜乃佳の少し先を歩く。上を見上げながら、ゆったりと進むその横顔は穏やかだ。時折、足元に気をつけてだとか、寒くないですかなどと言って振り返る視線も、柔らかな気がする。
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