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店を出てから、いや、ドルチェを食べ終わる頃から、互いに口数はぐんと減っていた。元々多い方ではないのかもしれない。菜乃佳も、やたらと口を開くタイプではない。だからか、既に随分と離れた橋から電車の通過音が届く中、無言で歩いていても気にならなかった。
立ち止まりそうなほど歩みを遅くして、グイと首を伸ばして枝先を覗く北方にならって、菜乃佳も天を見上げる。
曇天の狭間から、うっすらと黄色い円が覗く。朧月夜というには隠れ過ぎているが、雨になるには、まだ少々の時間があるらしい。
ぼんやりした月から徐々に目線を下ろしていけば、外灯は少し離れていて、宵闇までがぼんやり霞んでいる。満開をとうに過ぎ、花の合間には木肌が露出しているはずだが、闇と一体化している。暗い藍色から浮かび上がるかのような白い花は開き切っており、些細なそよ風にも散るゆくばかりだ。
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