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菜乃佳は、呆然としたような気持ちで、それを見ていた。
美しかった。
けれど、仔細に観察していたわけでもない。心に留めおこうとしていたわけでもない。数メートル先で振り返った北方に呼ばれて、足を止めていたことに気づいた。
ただただ眺めていた。景色の中に自分を置き、ぼんやりしていた。
「……すみません、ぼうっとしていたみたいで」
そんな感覚は、一体いつ以来だろう。
子どものときならあった気もする。思い出せないほど昔のことだ。
普段なら、こんなことをしないし、する暇もない。そもそも目的もなく歩くことはないし、一人でうろうろすることもない。そして、共に歩いている人がいるのに、その存在を忘れたかのように無言で足を止めることなんて、しないはずなのだ。
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