月隠す花

13/15
前へ
/67ページ
次へ
会話をしていなかったのはお互い様だとしても、相手を気にもせず、足を止めていたのは、さすがに失礼がすぎるだろう。 しかも、北方は職場の先輩だ。気を遣いこそすれ、存在を忘れていたようになどして良いはずがない。 慌てて謝ろうとした菜乃佳は、北方がフイと顔を上げたので、勢いを失して押し黙った。 月を見上げた北方は、密やかに感嘆して、頬を緩めた。 「……ぼんやりしたものを、ぼんやり見るというのも、良いんじゃないでしょうか」 思いがけない言葉に瞬きを繰り返す菜乃佳に気づいて、その微笑をそのまま向ける。 「良い月ですね」 「……ええ」 満足気に頷いた北方は、またゆっくりと歩き出す。 菜乃佳は、それに続きながら、再び夜空を見上げた。
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!

353人が本棚に入れています
本棚に追加