353人が本棚に入れています
本棚に追加
何度も謝る北方だが、菜乃佳はそれほど気にしていなかった。確かに残念だが、夕食をしっかりご馳走になったお陰で、のんびりと散歩をした後の今でも体は温かい。北方が悔やんでいる様子が伝わるので、申し訳なくなるほどだ。
それほど薦める店なら、今度一人で来てみよう。そう北方に告げようとすると、先を越された。
「……もう一度、お時間をいただけますか」
驚いたのは、自分と考えが違ったからか、想像以上に言葉が丁寧だったからか。その瞬間、そよ風に押し出された一枚の花弁のように、胸にごくささやかな波紋が広がった。
いずれにしても菜乃佳は、ぼんやりした月に照らされながら、その申し出を受け入れた。
新しく生まれたその感情は、しばらくぼんやりさせたまま棲まわせておくことにした。
最初のコメントを投稿しよう!