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けれども、目当ての企画展は大変な人気だった。開館時間より一時間前に着いたにも関わらず、美術館の前の広場には長蛇の列が出来上がっており、拡声器を持った係員が声を張り上げている。
「三時間待ち、ですか」
「予想以上だね」
桜を見た夜、もう一度時間をもらえないかと言った北方に対し、菜乃佳は一つ交換条件を出した。北方があまりにも済まなそうな顔をしていたのと、後輩という立場の気安さで申し出てみたのだ。
「どうしようか」
それで北方は、ようやく敬語を解いてくれた。聞けば、職場では立場を問わず、丁寧な口調を崩さないらしい。年上の部下を持ってからの習慣だと聞いた。
「別の所に行きましょうか。並ぶのは構わないんですけれど、ここまで混んでいると、中に入っても満足に見られそうにないので」
それもそうだと北方も頷いて、とりあえず最後尾についていた行列から抜ける。
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