夏揺す嵐

6/34
前へ
/67ページ
次へ
理解するのではなく、感じてみればいいのではないか。美術館に来る人も、皆が皆、芸術に明るいわけではない。心が動くものがあれば、来た価値はあるのではないか。 「解説してあげられれば、かっこいいんだろうけどね」 肩を竦めて謝罪を口にする北方は、ちっとも済まなそうではない。その軽妙さに、心も足も軽くなる。 行ってみようと思った時点で、感情は動いている。実際にそこに向かえば、体も動いている。それで十分なんだなと菜乃佳は思い、堅苦しく考えるのは止めにした。 三十分ほどで着いた先は、閑静な土地だった。住宅が建て並ぶ傍に、突如としてコンクリート造りの大きな建物がどんと現れる。目的の美術館だ。
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!

353人が本棚に入れています
本棚に追加