夏揺す嵐

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思えば、北方とはよく歩く。 二人でよく夕食に行くのは、最初に夜桜を見た辺りで、会社から二十分ほど歩いていく。バスやタクシーを使っても良いのだが、菜乃佳の方が北方より先に退社することが多いので、歩き出していると、そのうち北方も追いつくのだ。 さらに、そのまま十分ほど歩くと、私鉄の駅につく。その路線は、菜乃佳は通勤に使っていないが、自宅の最寄り駅も通るので、帰りはその駅を使うことが多い。北方は、元々その私鉄を利用していたため、自然と帰りも一緒に歩いていくことになる。 北方といると、歩いているときに景色が見える。 おかしなことと思うが、別の人と歩いているときには、ろくに目に入っていないのだ。会話に気をとられているせいかもしれない。 一人で歩いているときも、見えていなかった。目的地に急ぐことや、考え事で頭がいっぱいだったのだろう。
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