夏揺す嵐

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「誰から聞いたんですか?」 「白川」 菜乃佳は、思わず顔を顰める。白川は菜乃佳の部署のチーフで、直属の上司だから試験を受けることは知らせてあったが、だからと言って他部署の北方に報告する必要は無い。 「税理士にでもなるの」 「まさか」 大学を卒業してから、もうすぐ十年も経つ。新卒で入社した勤め先の業績は、安定しているし、少々退屈さを感じることはあっても、仕事には概ね満足していた。 肩を竦めた菜乃佳を、それ以上追及することはなく、北方はまた歩き出す。完全に前に向き直ってから、その背中に向かって菜乃佳は独り言のように繰り出した。 「……何かしてないと不安で」 「……うん」 「仕事に役立つというわけでもないんですけど、趣味とかもないし」
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