第1章

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「その質問に答えるには私の生い立ち、そして性癖までも話さなければならないのだが、あいにく私にはここで悠長にしている時間はないのだ。私は夜をベチョベチョしなければならないのだ」  彼と会話したことでますます好奇心がかき立てられたぼくは食いさがる。 「お願いします。どうしても今知りたいんです」  頭を下げて懇願すると、彼はしばらくの沈黙を挟んだ後、不承不承といった声音で、「乗りな」と一言こぼし、ぼくに向けていた顔を正面に戻した。  ぼくは彼が口にした言葉を3秒ほどの時間をかけて咀嚼し、いろいろと不明な点はあるが、彼の誠意を感じたのでその言葉に従ってうつ伏せの彼の背にまたがった。子どもならまだしも、この歳になって成人男性の背中に乗る機会があるなど思いもしなかったぼくは、人の背の上では、どのような居住まいでいればいいのか分からず、尻の位置を何度も修正した。その落ち着きのない様子を見かねた彼は、「手は楽にして私の肩に添え、足は私の胴体をやさしく挟み込むようにするんだ」と、正しい騎乗になるよう指示を出し、ぼくの姿勢を安定させた。  ぼくの体勢が定まると彼は軽く腰を上げ、わずかに生まれた空間に片手を入れ、まるでエンジンを温めるかのように性器を刺激し始めた。ドルンドルン、というエンジン音の代わりにシュシュシュという素早い摩擦音がひときわ鋭くあたりに響き、寝入っている近隣の住民が目を覚ましてしまうのではないかと危惧したが、幸いにもそうなる前に彼はぶるりと腰を大きく痙攣させ、深いため息と同時に発進した。  突風が顔に吹き付け、はたから見ていたときよりもその速度は速く、思わず恐怖を覚えたぼくは彼の肩を強く握った。その心中を感じ取った彼は顔半分こちらへと振り返り、「心配するな、私のモットーは安全第一だ」と言わんばかりの強い視線をよこし、小さく頷いた。言外からにじみ出る安全運転に対する自信に、ぼくはすっかり安心し、先ほどとは打って変わり、めくるめくようなその速度を楽しむ余裕さえ生まれた。
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