苦い煙草

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 灯りのついていない我が家を見た途端、なぜか無性に煙草が吸いたくなり、近くの自販機で、西村はハイライトを買った。    煙草を買うのは三十五で止めてから十年振りだった。    封を切ったがライターが無かった。    家に入り仏壇にある線香用の百円ライターで煙草に火をつけた。    深く吸った瞬間にむせた。  にがかった。  まるで高校生のようだと思った。    遺影の由貴が笑っていた。    火のついた煙草を台所の流しの三角コーナーに捨てると、ジュッと音がして焦げた臭いが鼻をついた。    西村は自分が本当に妻を失ったのだと感じた。                           終
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