272人が本棚に入れています
本棚に追加
まるでかくれんぼをしているようなかけ声が、後ろから唐突に聞こえてきた。
何だろうと思って振り返ると、肩まで伸ばした漆黒の髪を揺らしながら色の濃いサングラスをかけた男性が、私たちをじっと見ていた。
(こんな人、知らない――でも間違いなく私の名前を口にしていたよね)
「やっぱカレシ持ちか。魅力的なリコちゃんなら、当然だろうなって思った」
口元に艶っぽい笑みを浮かべてサングラスを外したら、男性の整った顔立ちが露になる。
白シャツにジーンズというラフな格好なのに、その場に立っているだけで目が惹き付けられてしまう存在感。
――どこかで見たような気がする――
「アナタ一体、誰ですか?」
こんなイケメンの知り合い、私の記憶にないワケがない。一度見たら、きっと覚えているはず。
超絶失礼だろうなぁと思いつつ訊ねた私に、魅惑的な瞳を細めて微笑みかけてきた。
「はじめましてじゃないんだけどね。そーだな、リコちゃんの許婚って言っておこうか」
呆然としている私の左手を強引に掴み、手首に痛みの走るキスをいきなりした長髪のイケメン。
「ちょっ、何するの!?」
びっくりして手を引っ込めて、キスされた手首を確認してみる。そこには、くっきりと痕が残っていた。
「キスする場所に、深い意味があるのを知ってる? 唇は愛情、首筋は執着、そして手首は何だと思う? カレシさん」
長髪のイケメンは自分の手首をぷらぷらさせながら、克巳さんに向かって質問を投げかけた。
最初のコメントを投稿しよう!