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「ごめんなさい、お待たせしちゃって!」
「大丈夫だよ。俺もさっき来たばかりだし」
いつもの待ち合わせ場所に急いで駆け寄ったら大好きな彼、相田 克巳(あいだ かつみ)さんが、柔らかい笑顔で出迎えてくれた。
疲れた躰に染み渡る眩しすぎる笑顔だな、じーんとしちゃう。
「あのね帰ろうとしたら、いつものお得意さんから電話があって延々と長話されちゃった。本当にごめんなさい、克巳さん」
仕事ならしょうがないよと言いながらいつものように腕を差し出してきたので、喜んで右腕を抱き寄せて、自分の腕をぎゅっと絡めた。
――付き合ってまだ、二ヶ月とちょっとの私たち――
取引先に勤めている克巳さんとは、電話でお仕事の話をするだけの関係だったけれど。
『……あの突然なんですが、好きな食べ物は何ですか?』
仕事の話を終える間際に緊張感を漂わせた声色で突然訊ねてきて、すっごくビックリしちゃったんだよね。
『えっとえっと、ミカンが好きです!』
『あ、スミマセン。好きな料理って聞けば良かったですね、ははは』
『え――!? その、スミマセン! 何かビックリしちゃって、変な返事をしてしまって』
電話口で焦る私に、嬉しいですよと言った克巳さん。
『もしよろしければ、お逢いすることは出来ませんか? 夜景の綺麗なレストランで、一緒に食事でもどうでしょう。勿論デザートに、ミカンをつけてみますけど』
『ええっ!? 相田さんいきなり、どうしちゃったんですか?』
『実は前から、いいなと思っていたんですよ。元気に明るく対応してくれるから、いつも気持ちよく仕事が出来ていましたし。それはアナタのお陰なんですよ、鈴木さん』
『だって相田さんとは、一度も逢ったことがないのに……。実物を見たら、きっとガッカリするかもしれませんよ』
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