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『シャワー、使えよ』
シーツの乱れたベットに腰かけ、
煙草に火をつけながら、彼が言った。
火曜の夜は、
唯一、私が彼を独占できる夜だった。
彼のベットで、
甘い余韻にまどろんでいた私は、
ベットから立ち上がろうとして、
腰から砕け、床に座りこんだ。
彼は、肩をゆらして苦笑し、
煙草を灰皿においた。
『ほら…』
と、後ろから私を抱きかかえ、
ベットの端に座らせた。
『いけんのか?』
『‥‥ん。』
くゆる煙の中、
彼の声がやけに心地よくて、
肩にもたれかかり、目を閉じる。
この煙草の匂いが、
一番、彼と居ることを実感させてくれる。
ここでは、
嗅覚と聴覚さえあれば、
ただ単純に私は満たされる。
廂のない窓の桟に、
雨が叩きつけられ、
うるさいくらいの音がしていた。
ただ、落ちている音だった。
『結構、降ってるのね』
『ああ。』
落ちるから音がする。
出会ったから抱き合った。
深い意味や、理由は、
なかったはずだった。
目を開けて、窓の外を伺う。
雨が窓ガラスに叩きつけられては、
流れていっていた。
窓際の小机には、
彼の日常の物々が雑然としている
飲みかけのペットボトル、
煙草、ライター、鍵、ペン、
マニキュアの小瓶……
ドクンーーーー!
全身の血が、
体内で音を立てて逆流した
そして同時に、
蓋をしていたはずの
感情が溢れ出してきた
焦り、
憤り、
―――現実。
私は、彼の口にあった煙草を
灰皿でもみ消し、
強く、彼の唇に唇を押しあてた。
一瞬、強い煙草の匂いに
むせそうになりながらも、
私は、激しく彼の唇を覆った。
彼は、少し驚いていたが、
すぐに左腕を私の背に回して
身体を抱き留め、
私の舌を受け入れた。
私は彼の舌を貪ったまま、
彼をベットに押し倒し、
小瓶を意識しながら
自ら彼の腰に跨った。
彼の体を征服することでしか、
小瓶に対抗しえない私だった。
彼に覆い被さり、
彼の耳を噛みながら、
もう一度、小瓶に目をおとす。
そこでよく見てるといいわ
end.
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