第1章

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 会社の面接は面接する側も受ける側も対等だとはいうが、どうしたって受ける側は下手に出てしまうだろう。かといって自信が無さそうに見えてもマイナスになる。そのさじ加減が難しいよな、などと思いながら、ネネは二人の手首にある腕時計を睨みつけたが、距離があって時間が分からなかった。溜息を吐いて冷めたコーヒーを飲む。さっきまでは美味しかったような気がしたが、今は煮詰まったような味に感じた。 カケルは、今もどこかでコーヒーを飲んでいるのだろうか。ネネは思った。  ネネと母は、一年という時間を経て、少し心が安定してきていた。カケルがいなくなったことは未だに胸痛いが、もう彼も子どもではない。警察とも何回か話して、事件性は少ないということが分かったので、安心した部分が大きかった。母もやっと精神安定剤を手放せるようになった今、カケルの居場所が分かったと、登山仲間の一人から連絡があったのだ。それなのに一向にその男は現れない。 ここはもうウエイトレスを呼ぶしかない。そう決意して手を挙げようとしたところ、隣で「すいません」と声が上がった。見ると、さっきまで参考書に怒りをぶつけていた若い男が、いつの間にかメニューを手にして、今度はケーキの並んだ写真を食い入るように見ていた。落ち着きを取り戻すために、甘いモノでも食べる気だろうか。けれどこれはネネにとっても良い機会だった。ウエイトレスがオーダーを取りに来れば、時間が訊ける。ネネがホッとしながら待っていると、こちらに来ようとしているウエイトレスの足が止まった。 「いらっしゃいませ」  ドアが空いて、くたびれた薄いコートを来た中年の男が入ってきた。面接の練習をしていた女性と同様に頬が赤いのは、外が寒いせいなのだろうか。  その男はウエイトレスに片手を上げて制すると、店内を見回してネネを見つけ近づいてきた。 「あの、伊藤ネネさんですか」  ネネが軽く頷くと、「すみませんね」と言って前に座った。 「前の案件がもつれちゃって時間がかかってしまいました。連絡できなくてすみません」  ‘前の案件’についての説明は無く、男はコートも脱がずにせかせかとカバンから小冊子を出そうとしていた。傍に立ったウエイトレスに「どうぞ」とメニューを渡され、片手で受け取る。 「ブレンドコーヒー」
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