男の友情が贈るもの

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 足音が聞える。ドタドタと、タバコとコーヒーにとってはとても大きい存在だった。物質的にも、精神的にも。彼らには神のような存在だった。  足早に机に来てタバコを指でさっと掴む。タバコは天を睨む。コーヒーは対照的に悲しそうに俯いた。 「あばよ!」  タバコはかっこよくいった。友との別れを自分の人生の最後の仕事のように励み、全てを終えた。いつも内心は人生の不条理を恨んでいたが、目の前にある死に恐怖しかなかった。怯えたように震えていた。  指で掴んだタバコを唇に挟み人間は火をつけた。ジリジリと音がなる。コーヒーはタバコが身を焦がす姿を見た。目頭が熱くなった。 「今までありがとう。人生が孤独でなくなった。本当にありがとう」  タバコは体を振り、言葉ではない返事をした。  タバコの子供達が宙を舞う。人間は机の前にある窓を少し開けた。子供達が旅立っている。コーヒーはそれを見て、自分とタバコのように友情を子供達に育んで欲しいと、自分も子供を旅立たせようとした。  大事な友人であるタバコの今際、自分を熱くするのは簡単だった。互いの子供達が戯れる姿は、芳しい程に美しかった。  身を焦がし徐々に灰になっていくタバコは、懐かしい匂いを感じた。コーヒーとの出会いを思い出した。 「人生なんてさ、灰と火があるだけで僕らは何も持ってないよ」  まだ初々しい頃のタバコだ。 「灰と火があるじゃないか」  コーヒーの答えにタバコは笑った。 「はは、灰と火は僕らのものじゃないよ」  身を焦がすタバコは、懐かしい匂いにつられて出会いを思いだし、コーヒーを見た。コーヒーは泣いていた。カップの横にタバコの雫が、一つ、つーっと流れていた。 「人生は良い物だ。不条理だったとしても」  タバコがそう言った直後、灰皿に足から押しつぶされた。  机の前にある窓は閉じられていた。コーヒーは棺桶になった灰皿をしばらく見ていた。孤独になったコーヒーにとって嗜むものはタバコとの思い出だった。タバコとの思い出の中、コーヒーは静かに冷たくなっていた。
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