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外から見上げた自分の部屋に明かりがついていることに、驚くことはもうなくなった。
でも、心の中が純粋に嬉しい気持ちだけでもなくなっていた。
「ただいまー」
「おー、おかえり」
玄関に見慣れた靴が一足。
声がした方を見るとリビングのドアが開いていて、その奥のソファに座る彼が、顔だけをこちらに向けていた。
右手には、天井に向かって煙がのびる一本のタバコが見えた。
「ちょっと、ここで吸わないでって言ってるでしょ!吸うならベランダ出てよ。」
今まで何度注意しても、彼は部屋の中でタバコを吸う。
私がタバコが嫌いなことを知っても止めないから、最初は嫌がらせのつもりなのかと思っていたけど、最近になってその理由もわかってきた。
「はいはい、消したよ。どこ行くの?」
彼に背を向けた私の、右手首を掴まれた。
「着替えてくるの。ってか、なんでうちにいるの?今日は大事な接待が入ってるとか言ってなかった?」
お互い仕事が忙しくて、最近は一日に数通のメールを交わすくらいだったから、久しぶりにご飯でもどうかと私から誘った。
でも、その日は得意先の幹部と食事の予定があるとかで断られてしまった。
それが確か、今日だったはず。
「あー、あれね。先方の都合が悪くなったみたいで、なくなったんだよ。だから、お前の顔見に来た。」
ソファに座ったままの彼は、自然と私を見上げる形になる。
「久しぶりに会ったんだから、そんなカリカリすんなよ。こっちおいで。」
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