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バカな男だな、と思う。
私が何も気付いていないと思っているんだろうか。
気付きもしないで、彼の言葉を受け入れていると思っているんだろうか。
でも、そんな薄っぺらな言葉でもまだ心が舞い上がってしまう私は、きっとバカな女だ。
優しく手をひかれ、私は彼の腕の中に収まる。
強く抱きしめられるほど、嫌いなタバコのにおいでいっぱいになる。
そして微かに感じる、甘いにおい。
私はこのにおいを知っている。
少しでも彼に似合う女になりたくて、彼を想って選んだ香水。
それを買った二日後に、何の連絡もなく彼が突然うちに来た。
会社の飲み会の帰りだという彼からは、お酒とタバコと、甘ったるい女物の香水のにおいがした。
それからというもの、たまに彼からあの香水のにおいがするようになった。
私の香水は、まだ買ったときのまま一度も使っていないはずなのに。
「今日何してたの?」
「何って、仕事だよ。10時くらいにはもう夜の予定キャンセルになってたからさ、お前に会いに来るのに仕事切り上げてきたんだぞ。」
さっきよりもずっと近くなった距離が、少し離れる。
ネクタイをはずしボタンを2つあけたワイシャツからは、彼の肌が見えている。
また私を抱きしめようと近づいてくる彼の胸に見えたのは、赤いシルシだった。
「ねぇ・・・私のこと、好き?」
「当たり前だろ。愛してるよ。」
ほら、嘘がみえた。
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