注がれた恋と手渡す苦さ

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コーヒーの苦さは落ち着く苦さだ。 「若葉、またブラックコーヒーなの?飽きないね~」 「ほっといてよ、絵子」 お昼休みにいつもの自販機で買うコーヒーも私の心の安定剤の一つでもある。蓋を開けるとほんのりと白い湯気が立った。 教室に戻り絵子と私、隣同士で窓際の席に座った。 「落ち着く…」 「今日いい天気だもんねー」 結局先輩は初めてお店に来てから一か月近く欠かさず煙草を買いに来ていて、私はそれが気になって仕方が無かった。 「(先輩は…みんなの知らないところで煙草を吸っているのかな)」 先輩は18歳でまだ未成年だけど、私服のときは成人に見える位大人っぽくて。 「(本当はいけないことなのにな)」 年齢確認の為の身分証提示なんて今時店員はしないことの方が多い。でも先輩は高校生だってことを知っているのに私は黙ったまま。 「あたしブラック飲めないんだよねー、なんか苦くて」 「そう?何回か飲んだら癖になるのに」 缶の中身を8割程飲んだところで私は窓の景色を眺めた。 「……あっ」 カランと音を立て倒れる缶。 「ちょっ、若葉!!!」 「ごめんちょっと外出るね!!」 口に飲み込んだコーヒーの苦さがいつの間にか渇いてしまっていた。
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