注がれた恋と手渡す苦さ

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「そうだね」 笑みを崩さないまま、先輩がこちらを向いた。 「俺は、大人になろうとして足掻こうとしているだけかもしれない」 そこから先輩は少し長い話を始めた。自分より数歳上の恋人と付き合っていたこと、背伸びをしすぎて別れたこと、そこから煙草を買い始めたこと。 「俺があのコンビニを選んだのはほんの気紛れだったよ。偶然ともいうのかもしれない。たまたま自分の通っている高校の下級生が店員で…だけど、君は見逃してくれた」 「………」 それは、 「何だか人にはいえない秘密を共有しているみたいで」 「………酔っていた」 「……そう、だね」 憧れていた、いつも遠くから見つめていた先輩が自分と秘密を共有している。 その甘さに酔っていたのは自分だ。 「…失礼します」 もう先輩の隣にいられなかった。 コーヒーが飲みたい。いつも飲んでいるブラックよりキツい苦さのものを。 「(……やばい)」 今の私はとってもみっともない。 「いらっしゃいませーー」 あれから一週間、先輩は土曜日に店に来なくなった。 「あの子、もう来ないのかしらね」 「……さあ。」 七星さんのからかいにも反応する気にならないくらい私は意気消沈していた。 「(……あああああああああああどうしよう、やっぱり嫌われたのかな)」 というより、これは色々とや… ピーンポーン。入り口のセンサーが軽快に鳴ったので、私は普通に応対しようとし--- 「………先輩」 大分前に来ていたような黒づくめの格好をしていたが前とは雰囲気が違う。張り詰めていたようなそんな感じが抜けて、ラフになっている。 「………煙草、捨てたんだ。それで…」 ゆっくりと尻すぼみに言葉を紡ぐ先輩。少し目線を反らし、あの時のように--- 「(…そっか)」 先輩は変わったんだ。私の知らないところで、知らない過程を経て。 だから、私も--- 「…当店のコーヒーは如何ですか?お客様」
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