1人が本棚に入れています
本棚に追加
◆
しばらくして、上村先輩が休憩室にやってきた。
「横山のマシンの開発環境だけどさ、参照してるクラス、更新前のバージョンになってたよ。バージョン上げたらうまく動いた」
え?
「ありゃりゃ」と木崎さん。
「開発用のバージョン上がってたの、聞いてなかったっけ?」と、上村先輩。
「あ、はい……ちょっと覚えが……」
「あー、ごめんごめん! 俺だ」
そう言って苦笑したのは、木崎さんだった。
「ほれ、上村。そのバージョンアップの話したのってさ?」
「あ、そういや、ここでしたね」と上村先輩。
あれ? じゃあ、俺には知りようが無いのでは……。
「ごめん横山。こないだここで、木崎さんと、尺友里恵のバージョンの話してた時に、ついでに話が出たんだわ」
尺?
そんな表情が、俺の顔にこびりついていたらしい。木崎さんが追加説明してくれた。
「毎年毎年、顔の造形が変わる謎の女優、尺友里恵の話してたの。今年は左右対象性が上がったなって」
なんですかそれ。
「まあ、そういうこともあるってことよ。その場にいることが大事。あ、尺の顔の話じゃないぞ?」
木崎さんが、笑いながら、強引にまとめた。
「何の話です?」と、きょとんとした表情で上村先輩。
「いやね、雑談も、仕事には大事だから、横山も混ざった方が良いよねって話」
「そんな話してたんすか。でもこいつ、タバコ苦手ですよ」
「それで来ないのか。じゃあさ横山、なんか他に無いの? タバコじゃなくても、コーヒーとか、テキトーに雑談しながらここで出来る、好きなもの」
「そうですね……モンスターハンターですかね」
『いや、業務中にそれはダメだろ!』
木崎さんと上村先輩の声がハモる。
いや、良いと思うんだけどなあ。ひと狩りしながらの雑談。ニコチン中毒にも、カフェイン中毒にもならないし。
……あ、廃人になるか。
<了>
最初のコメントを投稿しよう!